舞台トークショー | 劇場版「おまえの親になったるで」
テレビ大阪の「やさしいニュース」などの報道番組で記者を担当する北岸良枝ディレクターが10年にわたり取材を重ねてきた「犯罪者の更生」についてまとめあげたドキュメンタリー映画「おまえの親になったるで」が2月24日から3月8日まで、第七藝術劇場で公開。それを記念して2月24日にパネリストを迎えてトークショーを開催しました。
トークショーに登壇したのは、大阪を代表するお好み焼きチェーン「千房」の代表取締役会長であり、元受刑者の更生支援活動をする「日本財団職親プロジェクト」の代表を務める中井政嗣さん、元よしもとクリエイティブ・エージェンシー専務取締役で、現在は作家・謝罪マスターの竹中 功さん。竹中さんは、全国刑務所で釈放前教育を実施。「それでは釈放前教育を始めます」などの著書を出されています。そして、本作品の主役であり、犯罪被害者遺族でありながら、加害者の更生支援に取り組むカンサイ建装工業 代表取締役社長 草刈健太郎さん。今作を10年かけて作りあげた北岸良枝監督をあわせた4名がステージに登場。
司会進行をテレビ大阪の前田拓哉アナウンサーが務めました。トークショーは前田アナウンサーと登壇者の方々との質疑形式です。
率直に今のご感想をお聞かせ願えますか?
草刈健太郎氏(以下、草刈氏)
ちょっと胸が熱くなってましたね。しゃべれませんみたいな感じなんですけど。この映画、実は僕、今日初めて見るんです。部分的には観てたんですけども、あんまり、いろんなメディアさんとかで妹の顔と殺した人間の顔を観るのがすごい嫌で。
ほんとに、先に観とったらよかったなと思って。すみません。今日の映画を観て、ほんとにあの(妹は)福ちゃんって言うんですけど。今日もお母ちゃんが来てくれて、お姉ちゃんも来てくれて、ほんまにこの家族に生まれて良かったと思いました。北岸さんに、妹の生きた証を作ってくれて、本当に感謝申し上げたいと思います。
職親プロジェクトが始まったのが11年前。改めて、きっかけや経緯を教えていただけますか?
中井政嗣氏(以下、中井氏)
実は千房を創業して50年なったんですけども、創業当時ほんまに人手不足で大変だったんです。猫の手も借りたい、言い方が悪いんですが、猫以上の人間だったら誰でも採用するという。どんなんでも採用しようという、そんな思いで採用し続けたなかに、実は少年院上がり、鑑別所上がり、あるいは元受刑者そういうものが入社してくれとったんですね。知りませんでした。あるとき、店長の寮に行った時に、アルバムがあって、アルバムを広げたら、オートバイにまたがって鉢巻きつけた人の写真があって。「これ誰?」って聞いたら、「実は私なんです」って店長が言うんです。暴走族の隊長しよったんですね。そうやったんかと。それからみんなそれぞれ聞いていくうちにそういう者がいて。そういう者が店長になり、幹部になり、やがては、独立していった者も現れました。
今、おかげさまで大卒の新卒もとれるような会社になりましたけども。13年前に法務省から受刑者の就労支援の協力のお願いがありました。「どうして?」って聞いたら、千房さんが成功例を持ってると。
再犯率が非常に高いという時で、出所していった半分が再犯している。その7割が無職である。職につけるのがいかに大事かっていうことで。千房さんお願いできませんか。就労支援お願いできませんかと。
その時にやりたいと思いましたが、これを私の一存でできない。受け皿は現場ですから、役員会議でその話をしたところ賛否両論。「そんなん採用したら、お客さん怖がって来てもらえません。会社つぶれますよ」と。最終的に全て私が責任を取ろうということで進めました。
今日、法務省の方がたくさんお越しいただいてますけども。前代未聞ですけども、まだ、服役中のところで採用募集。刑務所で出所が決まった受刑者の採用募集をする。そこで応募者があったものに内定を出すという。まだ服役中ですから採用できるのはその半年後。ということをやり始めて。
特徴は、今日もみなさんが観た映画の中にも出てましたけど、受刑者の顔が丸出しなんですね。この取り組みはオープンにしなければならない。今までも協力雇用主制度があったことを知っていましたが、どこの会社がどういう者を採用してるのかというのが全くわかりません。伏せておられたんですね。
どうせこの取り組みをやるのであれば、千房と言う大阪だけですけども名前を社会に知ってもらえている。その知っていただいている千房が受刑者の就労支援をしているぞということを世に知らしめることが何より大事だと。
映画にありましたように、受刑者を受け入れるのは社会です。社会の受刑者に対しての思い込みや偏見をすこしでも緩和させるため。
草刈さんと出会ったのは東日本大震災。炊き出しの時に関わってらっしゃいました。実は妹さんが殺されてたっていうのは、職親プロジェクトに入らえてから知ったんです。それまで、知らんかったんです。知ってたら誘ってないんですけども。テレビ大阪で草刈さんの妹さんが殺されているっていうことを初めてニュースで知って。びっくりして。そうだったんかと。ほんとに謝りましたもん。「ごめんな」って。だけど、その時にはもう職親にどっぷりつかってもらってましたんで、ブレることはなかったですけどね。
草刈さん、誘われた時はどういった心境でしたか?
草刈氏:嫌でしたよ(苦笑)。知ってると思ってたんだけど、(苦笑)。
中井氏:実は東日本大震災の時に私、(草刈さんに)貸しがありましたから。いわゆる炊き出しをするのに、道頓堀から、うどんの今井さんや串かつ屋さんを誘って草刈さんに協力しましたから。
草刈氏:そうなんですよ。結構お金いりましてね。さだまさしさんとかいろいろ来てくださって、5000食ほど炊き出しをしましたね。中井会長からも、滋慶学園さんだとか、森下仁丹さんだとかを紹介していただきましてね。けっこう、寄付をいただいたんですよね。それが、財源となりまして。いまだに東北の石巻の一次産業と大阪の三次産業と繋がって、いま、13店舗ほどになっています。串カツだるまって会社で、牛タンつくねってあるんです。いまだに石巻で作ってもらってて。それを作っているヤマサコウショウって会社は、震災までは30人くらいやった従業員の会社が、そのきっかけのおかげで、いま150人くらいになっているんです。それが、去年、大阪にみんなで来てくれた。そんなきっかけもありまして。断わることでけへんかった。というのが、理由なんです。全然違う話なんですけど(笑)。
中井氏:今、名前が出ました串カツのだるまさんも職親プロジェクトのメンバーです。
更生支援といいますと釈放前教育を実施されているのが竹中さんですが、竹中さんは映画を見てどのように感じられましたか。
竹中 功氏(以下、竹中氏)
愛ですよね。愛情の深さと重要さみたいなことを感じました。また、今日、呼んでいただいたのは釈放前教育といいまして、まさしく、お二方がお話しいただいた時系列を巻き戻しまして、ボクらは現受刑者のみの釈放が決まった方への社会復帰プログラムを10年前からやっております。10年前は吉本興業という会社の社員だったんですけども、その途中で会社を「もう、ええわ」と辞めちゃったもんですから、その後は1人でずっと回っているんですけども。まさしく社会復帰するとこういう方(職親プロジェクト)が待ってくれているよと、応援してくれるよ。だから、しっかりと生き抜こうぜという話をさせてもらっています。
今も映画の中で(再犯率が)48%と。50%切ってましたけど、こういう話をすると「竹中さん、半分弱が塀の中に戻ってますよ」といわれるんですけども、返す刀で「(再犯せずに)半分残ってますよ、社会で生き抜いてますよみんなが」とはっきり言うようにさせていただいているのが、こういう(映画のような支援する人たちがいるという)背景があるんですね。やっぱり社会がどういうふうに受け取ってくれるかというのは、理解がまだまだなされていないなかで、ボクの場合はしゃべっているのは、受刑者しかいません。仮なり、満期なり釈放が決まった人ばかりです。実は刑務所を出る方法は3つあってね。釈放と脱獄と死亡しかない。半分シャレですけど、半分マジです。これしかないんですよ。そのなかでも満期なり、仮釈放ということで、社会に復帰する人の講演なんですね。
なんで、吉本の人がおるかってなると、先ほど申し上げましたコミュニケーションなんですね。「人の話を聞こう、わからなかったらわかるまで聞こう、わかりもしないのに中途半端な返事をしないでください」と。「わからなかったらもっと聞く、話すと聞くのキャッチボールをしましょうね」と。4時間授業をやってますんで、途中から雑談の練習になるんです。さすが吉本で学んだもんですから、「みんなに100万円あげます。なにに使いますか?」と聞くんですね。「バイクで日本一周」という答えが返ってきたら、「どんなバイクですか?」、「カワサキのなんとかというバイクです?」、「それはいくらしますか?」、「100万円です」、「買えないじゃないですか?」、「中古なら60万円で買えそうです」、「どこ行きますか?日本一周で?」、「北陸に行って寿司食いたい」、「なんの寿司食べますか?」というのをずっとやるんですね。「じゃあぜひとも、100万円ためて旅してくださいね」といったあとに「免許持ってますか?」って聞いたらね。「持ってませーん」って、「また捕まるで~」と、たまにオチがつくんですけどね。そういう雑談みたいなことをしながら。ボクの生徒さんは2週間とか1ヶ月以内にシャバに戻るのが決まった状態なんで、そこのバトンをお渡しするというところなんで、実はそのなかで、社会で待っている人はこんな人がいるよ、こんなことがあるよと。あとはケツ割りなや、なんて話をします。吉本いましたんで、最後にみんなに言うひと言が、「M-1グランプリ獲る方法知ってんねん」て言うたらね。「え~っ!」って言うんですよ。「M-1グランプリ獲る方法を漫才師の子に教えてんねん。獲る方法ってな、M-1グランプリで優勝するまで辞めへんことやねん」って。みんなにそんな話したら半分笑ってくれるんですけども、実はけっこう笑わない。すぐにあきらめない。応援団は人がいっぱいいるでという話をしています。
ちなみに、その日のボクのいつもの授業のテキストの1P目をめくると「I LOVE ME」って書いてあります。「“I LOVE YOU”って最近言えへんようになったけど、(ボクは)“I LOVE ME”って言うてんねんけど、みんな言うてるかって。みんな自分のことちょっと嫌いちゃうか?好きなろね~」と。これが出発ですね。
ボクのところは初犯しかいません。初犯のロングステイの人が多いんですけど、そこで言います。「ファーストステージはこれで終わりなんです。セカンドステージは主役です」と、自分で決めて自分が動く、応援団がいますから。自分で決めて動く。ひとに言われて動くんじゃない。だいたいこういう時ね、人に言われてやったときにね、失敗したらね人のせいにしよる。自分のせいで失敗したらね踏ん張りよる。なかなかケツ割らない。そんなことを話しながらねやってます。
今日の作品は、本当にね。ドキュメンタリー作品ですから、彼女の力作ですね。カメラの力が出てます。ストレートに出てます。
北岸さん、11年間で、20テラバイト700時間以上撮影したということですけども、北岸監督にとってこの11年間の活動は、どういった時間でしたか?
北岸良枝氏(以下、北岸氏)
すいません。高いところから失礼します。私はテレビ大阪の報道部で20年目になるんですけど、ちょうど11年前の2月28日に職親プロジェクトが立ち上がるというところで、ニュースの取材で行かしていただいて。その当時のプロデューサーの花本から言われて「行きなさいって」言われて行って取材させていただいて、そのあと刑務所の中で面接されるということで、そこも行かせていただいてというカタチで。また出てこられるということで取材させてくださいってことで、中井会長オープンにすると、おっしゃっていただいたんで、撮影をすることもできまして。
いろいろその後どうなったんだろう、どうなったんだろう、って形で追いかけさせていただいて、気づいたら11年経っていたというか。で、気づいたら10テラバイトのハードディスク2つがパンパンなってしまっていたということです。
想像できないくらいの容量だと思うんですけど。今回の映画化に向けてプレビューとかされたと思うんですけども、ひとつのカタチになりました。そのあたり制作者としてはどうですか?
北岸氏:ほんとにまぁ取材させていただいたということと、今回は草刈さんのご家族にもほんとにお世話になって、草刈社長も「観るのもしんどい」とおっしゃってたんですけど、たぶん、いろんな話をうかがって、みなさんしんどかったと思うんですけども。それでも、受けていただいたのがこういう1つのカタチになって、今まで届かなかった人にたちにも考えるきっかけになったらありがたいです。
前田アナ:竹中さんに1つおうかがいしたいんですけども、竹中さんは出所前の支援をされてる。中井会長と草刈社長は出所後の支援をされている。同じ更生支援といえども立場が違うと思うんですけども、竹中さんから見て聞きたいことや、映画を観てのギャップがあれば教えてください。
竹中氏:正しく理解と言うものをどう進めていくかが、大事なことで。ボクの場合の満期で出る人は、本当に不安。満期釈放の人は変な話、仕事決まってない、住むとこ決まってない。その日が来たら、バス停はあっちやでということしか、後はやってくれない。そこからは自分でやるしかない。正直言うと助けてくださる人に助けてもらいましょうよと。そういう意味では、こういうことをもっと広げていって、いい意味で理解者がもっとどうやったら増えるのかなというのが、ボクのテーマでもあります。それを理解して、応援団が増えることこそが仕事に繋がり、住むとこに繋がり、ついでに納税にも繋がる。納税が大事。働いてもらって、納税することが、セットだということをボクの授業では説明しています。理解して応援してくださる人をどうやって増やすか。これは、ボクのテーマです。
前田アナ:そういった意味では、この11年間。中小企業7社からスタートしたこのプロジェクトが今全国に広がって400社以上に広がっているところですよね。
中井氏:そうですね。ありがたいことです。5年以内に1500社それ以外に4500名の雇用っていうのは、もうこれは目標が決まってますから。
映画概要
【タイトル】テレビ大阪ドキュメンタリー映画 「おまえの親になったるで」
【公開】2024年2月24日(土)~3月8日(金)以降未定
【劇場】第七芸術劇場
大阪市淀川区十三本町1-7-27 サンポードシティ6F
【入場料】一般 当日券 1900円(税込)ほか
【監督】北岸良枝
【撮影・編集】テーク・ワン
【音効】音響企画
【ナレーター】竹房敦司
【プロデューサー】山田龍也・花本憲一(テレビ大阪)
【尺】94分
【制作】テレビ大阪
【製作著作】テレビ大阪
【公式HP】 https://www.tv-osaka.co.jp/movie/omaeno_oyani/
【公式X(Twitter)】 https://twitter.com/tvosaka_news
【公式TikTok】 https://www.tiktok.com/@tvonews?lang=ja-JP